腫瘍免疫、微小環境に着目した
肺がん治療法の開発をめざす
当教室ではこれまでに肺がん、乳がんに対する樹状細胞ワクチン療法を先進医療として行ってきた経緯から、如何にして肺がん患者の抗腫瘍免疫応答を増強できるかをテーマとして、日々基礎研究を行っています。
がん細胞のみを標的としたがん免疫治療だけでは治療効果は不十分
当教室ではMUC-1を標的とした樹状細胞ワクチン療法を行っていました。樹状細胞ワクチン療法は、腫瘍抗原ペプチドを付与した樹状細胞をがん患者に投与することで、腫瘍抗原特異的に細胞傷害性Tリンパ球を誘導し、これにより抗腫瘍効果を獲得するものです。
しかしそれだけでは満足のいく結果はえられませんでした。
がん組織は、がん細胞とこれをサポートするがん間質細胞との複合体であることを考えると、単にがん細胞のみを標的した従来の樹状細胞ワクチン療法ではやはり不十分であり、より効果の高い治療法の開発には、がん細胞とがん間質細胞が共に標的とされるべきと考えています。
がん関連線維芽細胞の阻害と併用すると樹状細胞ワクチンの効果が増強
そこで、がん間質細胞のひとつ、がん関連線維芽細胞CAFの働きを抑えると、抑制性の免疫細胞である抑制性T細胞Tregや骨髄由来抑制性細胞MDSCの誘導が抑制され(Ohshio Y et al. Scand J Immunol, 80:408-16, 2014)、全身性の免疫応答を改善し、さらに併用した樹状細胞ワクチンの効果を増強させることを、マウスの実験で示してきました(Cancer Sci. 106:134-42, 2015)。
これからの取り組み
CAF以外にもがん間質細胞は存在します。
現在、腫瘍関連マクロファージや腫瘍浸潤好中球などのがん間質細胞もターゲットとなりうるのか、研究を進めているところです。
また、がん免疫と一酸化窒素NOとの関係の解明と免疫機能のあらたな評価法、免疫機能のあらたな増強法としての可能性についても研究中です。
その他にも
普段、我々が手掛けている肺の手術の際に役立つ研究も行っています。
具体的には、手術中に肺からの空気漏れを検出する新たな方法の開発や、空気が漏れている肺表面を修復する新たな被覆材料や被覆法の開発などです。