拡大手術とは
小型肺がんに対する縮小手術が近年盛んになってきた一方で、いまだ発見される肺がんの50%以上がリンパ節や遠隔転移を伴います。なかには隣接臓器に浸潤する T3、T4といった進行肺がんも少なくなく、こういった“局所”の進行肺がんでは、いわゆる標準的な手術での完全切除は困難です。そこで完全切除を目指して工夫されたものが拡大手術です。拡大手術の特徴は肺葉だけでなく、がん細胞が拡大している周辺の組織も切除する点にあります。
主に筋肉や肋骨への浸潤に対する胸壁合併切除、神経や血管が集まる肺尖部の肺がん(パンコースト型肺がん)に対する拡大切除、横隔膜や心房・大血管合併切除などがありますが、多くの場合、切除臓器の再建が必要となります。また、効果を確実にするため、前もって抗がん剤や放射線治療を行い、がん細胞を小さくする補助療法が行われることもあります(例:パンコースト型肺がんでは、術前化学放射線療法後に、完全切除が行えた場合、術後の5年生存率は41%)。当科では、根治率を上げる目的で、縦隔リンパ節転移を伴う病期ⅢA期の進行肺癌に対して、術前導入化学放射線療法後に手術切除を行う第Ⅱ相臨床試験を行っております。
他臓器の合併切除など広範囲の切除が必要で、かつ体に大きな負担をもたらす拡大手術は、肺がん専門のチームと各専門領域の熟練した外科医とが協力し、初めて成り立つ手術と言えます。当院は、放射線治療の専門医・施設を備え、心臓血管外科、整形外科、耳鼻咽喉科など様々な科が協力し、拡大手術を可能にしています。