胸腔鏡下手術

 胸腔鏡下手術とは

video-assisted-thoracic-surgery

体内を観察することを目的とした医療機器を内視鏡と呼びますが、特に胸腔(胸の中の空間)を観察するための内視鏡を胸腔鏡と言います。

この胸腔鏡で観察しながら行う手術のことを胸腔鏡下手術(video-assisted thoracic surgery)と呼び、頭文字を取って「VATS:バッツ」とも呼びます。

肺がんに対する胸腔鏡下手術

肺がんに対する手術療法(根治手術)は、がんが占拠している肺を摘出(肺切除)しリンパ節の切除(郭清)を行うことです。肺を切除するためには、皮膚の切開、筋肉の切断あるいは開排、胸膜の切開を行って開胸し、切除する肺に到達する必要があります。従来の開胸方法には、後側方切開(写真1:背中から側胸部まで約20-40cm切開)や前方腋窩切開(写真2:脇の下から前胸部まで約10-20cm切開)があります。胸部の傷は痛みが強く、手術後に痰を出すための咳をした際にひびきます。また、長期に渡って肋間神経痛を伴うことがあります。

肺がんに対する胸腔鏡下手術

胸腔鏡下手術でも、肺がんの根治手術として肺切除とリンパ節郭清を行うことはかわりませんが、切除する肺に到達する方法、つまり傷を小さくする(写真3:脇の下に約3-5cm 切開)ことで身体の負担を少なくします。開胸手術と比較して、低侵襲なので術後の回復が早く、傷の痛みも緩和され、早期離床と早期退院が可能となります。

完全鏡視下手術の導入と工夫

完全鏡視下手術の風景完全鏡視下手術の風景

当科では、早くより肺がんに対する胸腔鏡下手術を導入していましたが、特に2007年からは完全鏡視下手術(胸腔内をのぞくことなくモニター画面のみを見て手術を行います)を行うことでさらに傷の縮小をはかっています。肺機能の温存、美容上の利点だけではなく、術野が拡大視されることで詳細な情報が得られ、また、執刀医と手術助手も同じ視野で出来るため、より安全に精度の高い手術が行えるという利点もあります。

ただ、全ての肺がんに胸腔鏡下手術が適応になる訳ではありません。片肺全摘術(摘出するだけで傷は大きくなります)や気管・気管支、周囲臓器の合併切除および再建術が必要となるような進行がん、また、高度の癒着がある場合は、従来通りの開胸術が必要となります。肺がんに対する手術で最も重要なことは、安全に、そして完全切除(根治術)が行えることであり、その上で低侵襲であれば尚良いというのが当科の方針です。

  2017 2016 2015 2014 2012
呼吸器外科総手術数   237(175) 234(175) 178(132) 194(114)
肺がん手術数   114 107 61 80
根治手術
(肺葉切除以上)
  85(65) 71(58) 39(36) 60(25)
楔状切除   14(13) 17(16) 9(6) 10(6)
区域切除   14(13) 16(15) 13(12) 10(8)
拡大手術
他臓器合併切除   2 3 1 6
気管・気管支形成術   1 1 0 4
 
転移性肺腫瘍   28(25) 27(26) 24(20) 17(16)
嚢胞性肺疾患   16(15) 19(18) 14(13) 22(22)
縦隔腫瘍   21(17) 23(21) 13(9) 19(12)

( )が胸腔鏡下手術数

進化する胸腔鏡下手術

当科では、胸腔鏡手術において、さらなる低侵襲と安全性の追求のため、「ロボット手術」や「単孔式手術」に積極的に取り組んでいます。

肺がんに対する胸腔鏡下手術の歴史

  • 1910年  Jacobeusの胸腔内観察
  • 1960年代 肺末梢病変の生検
  • 1970年代 軟性(フレキシブル)胸腔鏡開発
  • 1988年  腹腔鏡下胆嚢摘出術の成功
  • 1992年  末梢肺病変切除(1992年6月:滋賀医大胸腔鏡下手術の第1例目)
  • 1993年  高度先進医療
  • 1994年  保険診療(施設基準あり)
  • 1996年  施設基準廃止
  • 2000年  「胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術」が保険収載